「自己愛性パーソナリティ障害 正しい知識と治療法」のレビュー(辛口レビュー有)

 自己愛性パーソナリティ障害について

書かれている書籍は数多くありますが、全部読むのは大変です。

 

それぞれの本で気になった点、辛口レビューも記載しておくので

概要をざっと把握するでもよし、特徴を見て本の購入を検討するも

よし、参考にされてください。

今回は「自己愛性パーソナリティ障害 正しい知識と治療法」です。

  

 kindle版:有

概要

著者は東京にある市橋クリニックという精神科・心療内科クリニックの

院長である市橋秀夫氏。

 

精神科医の中でもおそらく臨床上で

自己愛性人格障害者の治療に関わることの多いお医者さんなのだろうと

思われます(精神科といってもそれぞれ病院・クリニックで関わる精神疾患や

障害というのは変わってきますから、

精神科医であれば臨床上のパーソナリティ障害に確実に詳しく治療もできる、

とは限らないからです)。

そのため内容は非常にわかりやすく書いてあります。

 

「なか見検索」ではマニュアル本のような形で書かれているように

感じますが、全体を見ても構成がそのようになっているだけで

内容まで「ただの形式的なマニュアル本」ではなく

専門用語も分かりやすく説明し、とても丁寧に

まとめられている印象を受けます。

 

精神療法を核とした治療や抗精神薬の効果、治療にかかる期間、大体の金額なども

明記しているページもあります。

ここらへんは精神科医ならではの情報ですね。

 

またどちらかというと、途中からは

自己愛性パーソナリティ障害者本人に

向けて書かれているという印象を受けます。

もちろん、心療内科でまさにパーソナリティ障害と

向き合っている著者ですから

「自己愛性パーソナリティ障害者の症状」

「自分自身の障害の気づき」

「どういう治療がどういうサポートチームの中で

必要になっていくか」

というような流れになるのは自然かとは思います。

 

辛口レビュー

家族や周辺の人に対しても「自己愛性パーソナリティの治療のための

支援」として幾つかの対応策を述べていますが、

とにかくその内容があまり現実的ではありません。

なんなら、このページはなくてもよかった(ないほうがよかった?)。

 

上述のように症状や心の働きについて丁寧に解説し、

「自己愛性パーソナリティ障害」への語りかけを

十分に行っていて障害を持った人達や家族が

「気づき」を得られるような工夫はしているので

「ああ、これってやっぱり自己愛性パーソナリティ障害から来る

症状なんだ」と納得するためのマニュアル、として

使えればそれだけで役割は十分に果たしたのではないかと

思います。

 

ところが最後の方にちょろっと

「周りの人の対応方法の原則」が書いてあって、

量は少なく見えるのに、書いてあることの

難易度が恐ろしく高い。しかも具体性がありません。

 

おそらくその原因は、この著者が「自己愛性パーソナリティ

障害に対する治療者」であるから。

ということに尽きると思います。

ですから書いてあるのは「治療者としての原則」です。

 

ただ、これを一番近くにいる「家族」、特に

おそらく一番悩みの深い「配偶者」に、

おそらく限界が何度も訪れるであろうこれらの原則を

本当に守らせるのか?守れると思っているのか?

ということがまず一点。

 

普通の人でも難しい事を、なぜ被害者となるような

おそらく自身も精神的な弱さを抱えているであろう

人達に出来ると思っているのか?

と考えてしまいます。

 

そしてこの原則の項目に、「自己愛性パーソナリティ障害者」が

自分の障害を自覚している場合には

この原則を守ってください、という前書きが必要だろうに

それが無いこと。

これがないと、自覚もしていないパーソナリティ障害者に対して

こういう対応方法が正しいのだと勘違いして

無理をする被害者が必ず出てきます。

 

つまり、現時点でカウンセリングに通っている

自己愛性パーソナリティ障害者とかその家族であるとか、

そういった人達の「心がけ」として

読む程度であれば問題ないとは思いますが、

途中まで「いいマニュアル本だな」と思っていた分

余計にその「家族(や周りの人間)の対応方法」にかけている

内容の雑さが目につきます。

省いてしまうわけにもいかなかったのでしょうか。